2026年9月18日、札幌市で80代の男女が立て続けに現金をだまし取られました。
南区の男性宅には息子を名乗る電話。
「飲食店でカバンをなくした。書類が入っていて、作り直すのに100万円いる」
中央区の女性宅には孫を名乗る電話。
「トイレにカバンを忘れた。お金を貸してほしい」
内容だけ見れば、聞いたことのある話だと思います。
僕も正直、ここまでなら「またオレオレか」で読み飛ばしていたかもしれません。
引っかかったのは、そのあとです。
電話を切ったあと、家の前に「知らない人」が来た
2件とも、息子・孫本人からの電話のあと、別の人物からもう一度連絡が入っています。
名乗ったのは「上司の弟」。
「もう着くから出てきて」
そう言われて自宅前の路上に出た2人は、そこにいた男に現金100万円ずつを手渡しました。
被害額は合わせて200万円。手口が酷似していることから、警察は同一犯による犯行とみて捜査しています。
僕がこの記事を書こうと思ったのは、金額の大きさより、この「上司の弟」という肩書きの気持ち悪さでした。
何が変わったのか。電話一本で完結させない設計
昔ながらのオレオレ詐欺は、基本的に電話だけで完結していました。
息子や孫を名乗る人物が電話でお金が必要な事情を話し、指定された口座に振り込ませる、あるいは自分でATMを操作させる。声と電話番号さえ演じきれば、そこで犯行は終わっていました。
今回の手口は、そこに一段階を足しています。
- まず息子・孫を名乗る電話で「お金が必要な理由」を作る
- 次に「上司の弟」という第三の人物を名乗る電話で、受け渡しの段取りを持ちかける
- 実際に現金を受け取るのは、電話ではひと言も話していない人物
被害者からすると、最初に電話で話した「息子」「孫」と、実際に現金を渡した相手が、別人になっています。
これが何を意味するか。
もし後から「あれ、様子がおかしかったな」と思い返しても、記憶の中の「息子の声」と、実際に会った人物が最初から一致していません。声を疑う機会そのものが、うまく分断されているんです。
「上司の弟」が果たしている役割
「上司の弟」という設定自体には、内容の説得力はほとんどありません。冷静に考えれば、赤の他人が現金を受け取りに来る理由として、かなり不自然です。
ただ、この設定には別の機能があります。
「息子(孫)の勤務先の人間関係」という、被害者が確認しようのない情報を持ち出すことで、疑問を挟む隙をふさいでいるんです。
「なぜ上司の弟が」と聞き返しても、電話の相手は最初から用意した理由(息子が手一杯で頼まれた、近くにいたので、など)をよどみなく返してきます。会話の主導権を渡さない、という意味では、劇団型と呼ばれる複数人がかりの詐欺と同じ発想です。
そして最後は、電話ではなく「路上で待っていた誰か」に現金を渡させる。これは受け子と呼ばれる末端の実行役を、電話の会話から切り離す狙いもあると考えられます。声で足がつきにくくなる分、警察の追跡は難しくなります。
覚えておきたいのは、手口の名前より「型」
「上司の弟」という肩書きは今回限りのものかもしれません。次はまったく違う呼び方で来る可能性もあります。
だから、この呼び方自体を覚える意味はあまりないと思っています。
覚える価値があるのは、次の型です。
- 電話で「お金が必要な理由」を作る人物と、実際に現金を受け取る人物が違う
- 「もう着くから」「近くにいるから」と急がせて、家の前や路上に呼び出す
- 会社・勤務先の人間関係など、こちらが確認しようのない立場を名乗る
この3つが揃ったら、名乗っている肩書きが何であれ、詐欺だと考えて間違いありません。
だから、家族の間で決めておくこと
警察庁の特殊詐欺対策ページでも、オレオレ詐欺への基本的な対策として、家族との合言葉や、本人への電話での確認が繰り返し呼びかけられています。今回のケースに当てはめると、具体的にはこうなります。
「お金が必要」という電話が来たら、その場で判断しない。一度電話を切って、自分が知っている本人の番号にかけ直す。これだけで、電話の相手が本物かどうかはほぼ確定します。
家の前や道端で、知らない人に現金を手渡すという行為そのものを、家族のルールとして禁止しておく。「正当な理由があっても、現金は絶対に手渡ししない」と決めておけば、「上司の弟」がどんな肩書きで来ても迷わずに断れます。
離れて暮らす親がいる人は、電話の内容ではなく、この2つのルールだけを伝えておくと実践しやすいと思います。細かい手口を覚えてもらうより、ずっと確実です。
もし現金を渡してしまったら
すでに渡してしまった後でも、できることはあります。
すぐに警察(110番、または警察相談専用電話「#9110」)に連絡し、被害届を出してください。恥ずかしいという気持ちから相談をためらう方もいますが、同じ相手が近隣で同時期に動いているケースは今回のように珍しくありません。届け出ることが、次の被害を防ぐ手がかりにもなります。
振り込んでしまった場合は、振込先の金融機関にすぐ連絡すれば、「振り込め詐欺救済法」により口座に資金が残っていれば分配金として戻る可能性があります。ただし今回のような現金の手渡しは、この制度の対象外です。だからこそ「渡す前に断る」ことがすべてになります。
判断に迷う電話や訪問があった時点で、消費者ホットラインの「188(いやや)」に相談するのも有効です。
この記事は、どんな人に関係あるか
正直に書くと、日頃から「知らない番号には出ない」「お金の電話はまず疑う」を徹底できている人には、目新しい話ではないかもしれません。
一方で、離れて暮らす親がいる人、あるいは自分自身が「まさか自分の親は大丈夫」と思っている人には、知っておいてほしい話です。
今回の被害者は2人とも80代でした。手口が巧妙になっているというより、電話一本で終わらせず、わざわざ路上まで足を運ぶ手間をかけてでも、確実に現金を受け取る方向に進化している。そう考えると、次に狙われるのが誰であってもおかしくありません。
本記事は、家計改善を実践する会社員が、自身の経験と報道機関の情報、警察庁の公表情報をもとに執筆しています。事件の詳細は2026年9月19日時点の報道によるもので、捜査の進展により内容が変わる可能性があります。最新情報は警察庁・各都道府県警察の公式サイトをご確認ください。
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