「子ども名義の特定口座で投資信託を売ったら、利益から2割ほど引かれていた。確定申告すれば全部戻るって聞いたけど、ほんまに全額返ってくるん?」——こういう質問、最近よく見かけます。
ジュニアNISAが終わったあと、子ども名義の特定口座でコツコツ積み立てている家庭は珍しくありません。そして売却したときの「約20%の天引き」に、初めて気づく。
結論から先に言います。**子ども本人の税金は、たしかに戻ることが多いです。でも「ノーリスクで全部戻る」とは限りません。**むしろ、何も考えずに確定申告すると、子どもが親の扶養から外れて、世帯トータルでは損をすることもあります。この記事で、その仕組みと落とし穴を検証していきます(2026年時点の制度に基づく一般的な解説で、税務アドバイスではありません)。
まず、なぜ売ると「約20%」引かれるのか
特定口座(源泉徴収あり)で投資信託や株を売って利益が出ると、その利益に対して**20.315%**が自動的に天引きされます。内訳はこうです。
- 所得税+復興特別所得税:15.315%
- 住民税:5%
たとえば利益が30万円なら、約6万円が引かれて、手元に残るのは約24万円。これが「源泉徴収あり」口座の仕組みで、本来はこれで納税が完結します(だから確定申告しなくてもいい、というのが「源泉徴収あり」のラクなところ)。
ここで大事なのが、株や投資信託の譲渡益は「申告分離課税」だということ。確定申告をしても、税率そのものは20.315%のまま変わりません。給与のように「税率が下がる」わけではないんです。ここを勘違いすると、「申告=必ず得」と思い込んでしまいます。
では、なぜ「申告すると戻る」と言われるのか
税率は変わらないのに、なぜ還付が起きるのか。カギは「基礎控除」をはじめとする所得控除です。
人には誰でも、所得から一定額を差し引ける「基礎控除」があります。2026年時点で、所得税の基礎控除は58万円(合計所得2,400万円以下の場合。さらに2025〜2026年は所得が少ない人ほど控除が上乗せされ、合計所得が少ない子どもなら最大95万円まで広がる特例もあります)。
子どもにほかの収入がなければ、この基礎控除をまるごと「譲渡益」にぶつけられます。すると——
- 利益が基礎控除の範囲内 → 課税対象がゼロになる
- なのに売却時には20.315%が天引きされている → 払いすぎ
この「払いすぎ」を取り戻すのが、確定申告(還付申告)です。だから「子ども本人に他の所得がなく、利益が基礎控除の範囲内」なら、天引きされた所得税分が、申告でほぼ戻ってくるわけです。ここまでは事実です。
【検証】じゃあ「全部」戻るの? → ここが本題
「なら全部戻るやん!」と思いますよね。でも、手放しでは喜べません。理由は2つあります。
① 戻るのは「控除で消える分」だけ。利益が大きいと戻らない
税率は下がらないので、戻るのは所得控除で課税所得が消えた部分だけ。利益が基礎控除(+その他の控除)を超えれば、超えた分には**しっかり20.315%**がかかります。「いくらでも全部戻る」わけではありません。
② 申告すると、その利益が「合計所得」に算入される ←最大の落とし穴
ここが一番大事なところです。
**特定口座(源泉徴収あり)は、確定申告”しなければ”、その譲渡益が「合計所得金額」に算入されません。**ところが、還付を受けようと確定申告”すると”、その利益が子どもの「合計所得金額」にカウントされます。
この「合計所得金額」が、扶養の判定に使われるんです。
「扶養から外れる」と、何が起きる?
子どもは多くの場合、親の扶養親族です。そして扶養でいられる条件は、子どもの合計所得金額が58万円以下(2025年分から。以前は48万円。2026年時点の要件)。
確定申告で譲渡益を合計所得に算入した結果、**58万円を超えると、子どもは親の扶養から外れます。**すると——
- 親の「扶養控除」が消える → 親の所得税・住民税が増える
- とくに19〜22歳(大学生年代)は「特定扶養親族」で控除が63万円と大きいので、外れると親の負担増がかなり痛い
- 16歳未満は、もともと扶養控除はありません(2011年に廃止)。ただし住民税の非課税判定・児童手当・保育料などで「扶養している子の人数」が使われるため、外れると別のところに影響することがあります
さらに、子ども本人にも住民税がかかる可能性が出てきます(住民税が非課税になるラインはお住まいの自治体や年度によって異なるため、必ず自治体で確認を)。場合によっては、取り戻した所得税より、親の増えた税金や各種影響のほうが大きい——そんな逆転も起こり得ます。
つまり「子ども本人の税金は戻ったのに、世帯全体では損をした」というのが、よくある落とし穴です。
だから「あえて申告しない」も、立派な選択
ここまで読んで気づいた人もいるはず。源泉徴収あり口座なら、確定申告しなければ、その利益は合計所得に入らず、扶養もそのまま維持できるんです。
- 天引きの20.315%は払ったままになる(戻らない)
- でも扶養は守られ、親の税金や児童手当などに影響しない
「還付を取りに行く」か「扶養を守って申告しない」か。どちらが得かは、利益の大きさと家庭の状況しだい。一律に「申告したほうが得」ではない、というのがこの記事の検証結果です。
扶養を外さずに、賢く取り戻すコツ
「それでも非課税の枠は活かしたい」という人向けに、現実的な方針を整理します(一般的な考え方で、最終判断は専門家に確認を)。
- 年間の利益を、基礎控除・扶養の範囲内に抑える:1年で大きく売らず、利益が58万円(迷うなら住民税も意識してもう少し低め)を超えないよう、複数年に分けて少しずつ売却・申告する
- 子どもに他の収入がないか確認:アルバイト収入などがあると、合算で枠を超えやすくなる
- 18歳以降は本人のNISAを活用:成人後は子ども自身がNISA口座を持てるので、これから増やす分は非課税のNISAへ移していくと、こうした悩み自体が減る
- 判断に迷ったら税務署・税理士へ:扶養・住民税・社会保険・各種給付がからむと複雑です。源泉徴収票や年間取引報告書を持って相談を
よくある質問(FAQ)
Q. 子どもに収入がまったくなければ、申告して全部戻る?
A. 「子ども本人の所得税」だけ見れば、利益が基礎控除の範囲内ならほぼ戻ります。ただし申告で利益が合計所得に算入され、58万円を超えると扶養から外れます。本人だけで完結せず、世帯で考える必要があります。
Q. 申告しないと損?
A. 必ずしも損ではありません。源泉徴収ありなら申告しなくても納税は完結しています。還付額より扶養を守るメリットが大きいなら、申告しない判断も合理的です。
Q. 16歳未満なら扶養控除がないから、気にせず申告していい?
A. 扶養控除はありませんが、住民税の非課税判定・児童手当・高校無償化の所得判定・保育料などで「扶養している子」として扱われることがあります。影響がゼロとは限らないので、確認しておくと安心です。
Q. 損が出た年は?
A. 損失が出た年は、確定申告で損益通算や繰越控除(翌年以降3年へ繰り越し)が使えます。ただしこれも申告すると合計所得の扱いに関わるため、扶養への影響とあわせて検討しましょう。
まとめ
- 特定口座(源泉徴収あり)で売ると利益に**20.315%**が天引きされ、本来そこで納税は完結する
- 譲渡益は申告分離課税なので、申告しても税率は変わらない。還付されるのは基礎控除などで課税所得が消える分だけ
- 子ども本人に他の所得がなく、利益が**基礎控除(2026年で58万円〜・低所得特例で最大95万円)**の範囲内なら、申告で所得税分は戻りやすい
- ただし申告すると利益が合計所得に算入され、58万円超で親の扶養から外れる(=親の税金増・各種判定に影響)落とし穴がある
- あえて申告しない選択もあり。利益を抑えて少しずつ、成人後はNISAへ——が現実的
「全部戻る?」の答えは、「本人の税金は戻ることが多いが、世帯で見れば全部得とは限らない」。取り戻す前に、扶養への影響まで一度そろばんをはじいてみてください。
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本記事は、NISA・家計改善を実践する会社員が、自身の経験と公的機関・公開情報をもとに執筆しています。特定の投資・節税手法を推奨するものではありません。
本記事は2026年時点の制度・税制に基づく一般的な解説です。基礎控除・扶養の所得要件・住民税の非課税ライン・各種給付の所得判定は、改正や自治体によって異なり、個別の事情で結論が変わります。実際の申告や判断は、国税庁・お住まいの自治体・税務署・税理士に必ずご確認ください。