お盆の帰省が近づくこの時期、実家に帰るたびに少し気になることはないでしょうか。「この家、将来どうするんやろ」——親も自分も、なんとなく話題にせず先送りしとう、あの問題です。
先に、この記事の結論を言います。
実家をどうするかは「相続が起きてから」考えると、選択肢が一番少ないタイミングで決めることになります。 不動産の二極化が進む今、考え始めるのは「親が元気なうち」がベスト。売る・残すの結論を今出す必要はありませんが、「話す・調べる・期限を知る」の3つだけは先にやっておくと、あとの負担がまったく違います。
なぜ「早め」なのか。まず、今の不動産市場で起きていることから見ていきます。
平均は上昇、でも実家は別——「二極化」の中身
2026年3月に発表された公示地価は、全国平均で前年比+2.8%と5年連続の上昇でした。ニュースの見出しだけ見ると「不動産は上がっている。実家も待てば高く売れるのでは」と思いたくなります。
ただ、平均の中身を見ると景色が変わります。
- **東京圏は+5.7%、大阪圏は+3.8%**と、都市部の上昇が平均を引っ張っている
- 地方でも、リゾート地や半導体工場の進出エリアなど一部の「勝ち組」だけが大幅上昇
- 一方、人口減少が進む多くの地域の住宅地は、下落または横ばいが継続
つまり「不動産が上がっている」のではなく、**「上がる場所と下がる場所がはっきり分かれてきた」**のが実態です。あなたの実家が都市部の駅近なら、慌てる必要は薄い。でも郊外や地方の住宅地なら、「待てば上がる」はあまり期待できず、時間の経過は価値に対してマイナスに働きやすい——これが二極化時代の前提です。
放っておくと「負動産」になる——空き家900万戸の現実
実家問題を先送りした先にあるのが「空き家」です。総務省の住宅・土地統計調査(2023年)によると、全国の空き家は900万戸と過去最多。空き家率は13.8%で、この30年でほぼ2倍に増えました。賃貸用・売却用でもない「放置系」の空き家だけで385万戸あります。
誰も住まない実家を相続して持ち続けると、こんなお金が出ていきます。
- 固定資産税・都市計画税:住んでいなくても毎年かかる
- 維持費:火災保険、庭木の手入れ、傷んだ箇所の修繕、通いの交通費
- 手間:換気や草刈りをサボると家は一気に傷む
さらに2023年12月施行の改正空家法で、「管理不全空家」という区分が新設されました。倒壊寸前の「特定空家」になる前の段階でも、市区町村から勧告を受けると住宅用地の特例(固定資産税を最大6分の1に軽減する仕組み)が外れ、土地の固定資産税が最大6倍になり得ます。「壊れるまで放っておく」が、税金の面でも許されにくくなったわけです。
価値は上がりにくいのに、持っているだけでお金が出ていく。これが「負動産」の正体です。
で、どう動く?——家族でやっておく3つのこと
ここからが本題です。今日から打てる手は3つ。どれも「売る」と決めなくてもできることです。
① 親が元気なうちに、一度だけ話す
一番大事で、一番後回しにされがちなのがこれです。実家の扱いは、親が元気なうちしか選べない選択肢がいくつもあります(親自身が売って住み替える、生前に整理する、など)。認知症などで判断能力が落ちると、家の売却は原則できなくなり、成年後見などの重い手続きが必要になります。
切り出しにくい話題ですが、「この家、最終的にどうしたい?」と親の意向を聞くだけでいい。決めるのはまだ先で構いません。あわせて、家の登記名義(祖父母のままになっていないか)と住宅ローンの残りだけ確認しておくと、あとの手続きが段違いにスムーズです。名義が古いままだと相続登記の義務(怠ると過料10万円以下)にも関わってきます。詳しくは相続登記の義務化の記事にまとめています。
② 実家の「今の価値」をざっくり調べる
売る・残すの判断は、値段を知らないと始まりません。不動産屋に行かなくても、ざっくりの相場は自分で調べられます。
- 国税庁の路線価図で土地のおおよその評価額をつかむ(路線価で実家の相続税を10分で試算する方法で手順を書いています)
- 不動産ポータルサイトで、実家の近所の売り出し価格を眺める
- 自治体の空き家バンクの成約状況を見る(地方の場合の現実的な相場観になります)
ここで「思ったより値段がつかない」と分かることもあります。ショックですが、それが分かること自体に価値があります。維持費を払い続ける価値があるかどうか、初めて比較できるようになるからです。
③ 「売るなら期限がある」ことを知っておく
相続してから売る場合、知らないと数百万円単位で損する期限が2つあります。
1つ目は、相続空き家の3,000万円特別控除。 相続した古い実家(昭和56年5月31日以前に建築)を売ったとき、条件を満たせば譲渡益から最大3,000万円を控除できる特例です。譲渡所得税が丸ごと消えるケースも多い強力な制度ですが、「相続開始から3年を経過する年の12月31日まで」に売るのが条件。さらに制度自体の適用期限が2027年12月31日と区切られています(延長の有無は未定)。耐震基準を満たすか、更地にして売るのが基本条件ですが、2024年からは売った翌年2月15日までに買主側が耐震改修・取り壊しをする場合もOKに緩和されています。
2つ目は、相続登記の3年期限。 2024年4月から相続登記は義務になり、相続を知ってから3年以内に登記しないと過料の対象です。売るにも貸すにも登記が前提なので、相続が起きたら最初にやることになります。
「3年」と聞くと余裕に感じますが、実際は四十九日、遺品整理、相続税の申告(10ヶ月以内)……とやることが続き、あっという間です。期限があると知っているだけで、いざのとき「急いで安売り」せずに済みます。
「売らない」も立派な選択——ただし”決めた上で”
ここまで売る方向の話が多くなりましたが、正直に言うと、売らないのが正解の家庭もたくさんあります。
- 実家が都市部・駅近で、価値が落ちにくい
- 兄弟の誰かが住む・戻る可能性が現実的にある
- 賃貸に出せる立地と状態(リフォーム費用と家賃相場の見合いは要確認)
- 家族の思い入れが強く、維持費を「払う価値のあるコスト」と納得している
大事なのは、「なんとなく放置」と「考えた上で残す」はまったく別物だということです。前者は負動産への片道切符ですが、後者は立派な資産管理。維持費が年間いくらで、誰が管理して、最終的にどうするか——ここまで決まっていれば、残す選択に何の問題もありません。
なお、どうしても引き取り手のない土地を国に引き取ってもらう「相続土地国庫帰属制度」もありますが、建物付きでは申請できず、負担金もかかるなど要件は厳しめ。「最後はコレがあるから大丈夫」と当てにできる制度ではない、とだけ知っておいてください。
まとめ——結論は出さなくていい。準備だけ先にやる
- 2026年の地価は平均+2.8%でも中身は二極化。郊外・地方の実家は「待てば上がる」が効きにくい
- 空き家は900万戸で過去最多。放置すると維持費に加え、勧告で固定資産税が最大6倍のリスクも
- やることは3つ:①親が元気なうちに意向と名義・ローンを確認 ②実家の今の価値をざっくり調べる ③売る場合の期限(3,000万円控除は2027年末まで・相続登記3年)を知っておく
- 売らない選択もあり。ただし「なんとなく放置」ではなく「決めた上で残す」
今日やる1つを挙げるなら——次の帰省で、お茶のついでに「この家、将来どうしたい?」と一言聞いてみる。それだけで、あなたの家の実家問題は「先送りの案件」から「動き出した案件」に変わります。重い相続の話は、また今度で十分です。
実家まわりのお金は、相続登記の義務化・路線価での相続税ざっくり試算・親の口座と名義預金の注意点もあわせてどうぞ。
本記事は、NISA・家計改善を実践する会社員が、自身の経験と公的機関の情報をもとに執筆しています。
本記事は2026年7月時点の制度・統計(総務省 令和5年住宅・土地統計調査、2026年地価公示、改正空家対策特別措置法、租税特別措置法)に基づいています。特例の適用条件は個別の状況で変わるため、実際の売却・相続の際は税務署・税理士・自治体の窓口でご確認ください。