自宅を売っても、そのまま住み続けられる。
そう聞くと、いい話にしか思えません。
でも国民生活センターが2026年8月4日に公表した相談事例を読んで、僕は正直、ぞっとしました。「売ってもそのまま住める」の中身が、思っていたのとかなり違ったからです。
今日はその「リースバック」というしくみと、実際に起きた3つのトラブルを整理します。実家の名義や親の家のことを考えたことがある人には、他人事に思えない話だと思います。
リースバックって、そもそも何なのか
まず仕組みから確認します。
リースバックとは、自宅を不動産業者などに売却したうえで、その業者に家賃を払って賃貸として住み続ける取引です。
消費者庁・金融庁・国土交通省・国民生活センター・J-FLEC(金融経済教育推進機構)が2025年12月に共同で公表した啓発資料には、こう説明されています。
「自宅を売却しても、家賃を支払って借りることで、引越まで住み続けられる自宅の処分の手段」。
売却代金がまとまって手に入る、引っ越さなくていい、固定資産税もかからなくなる。
たしかに、条件だけ並べると魅力的です。高齢者施設への入居準備が整うまでの数年間だけ自宅に住み続けたい人や、実家を二世帯住宅に建て替える間の仮住まいを避けたい人には、実際に向いている使い方もあります。
問題は、「住み替える予定が特にないのに、生活費に困って使ってしまう」ケースです。
実際にあった3つの相談
国民生活センターが公表した相談事例を3つ紹介します。いずれも70歳代です。
1件目。 6年前、生活が苦しくなり、築40年の分譲マンションをリースバック契約しました。約1,000万円で売却し、家賃7万円で賃貸借契約を結びます。ところが先日、貸主のリースバック業者から「家賃を約10万円に値上げする、応じないなら退去してほしい」と言われました。若干の減額は提案されたものの、それでも今より高額で納得できていません(2025年8月受付・70歳代女性)。
2件目。 床のリフォーム工事を契約したものの支払えないと伝えたところ、業者から不動産業者を紹介されました。自宅を1,100万円で売却し、賃貸借契約を結びます。しかも同じ日に、別の業者が450万円のキッチンリフォーム工事も契約させていました。売却金からリフォーム代を払おうとした際、金融機関から警察に通報が入り、家族が事態に気づいたそうです。今の売却額では、あと3年ほどしか住み続けられない見込みだといいます(2026年2月受付・70歳代女性)。
3件目。 1年前、自宅マンションを200万円で売却し、2年間の定期借家契約で家賃2万円を払って住み続けていました。契約終了後に退去を求められる可能性があるため、買い戻しを申し出たところ、購入額として1,000万円を提示されました。売却額の5倍です(2025年8月受付・70歳代男性)。
3件とも、契約した時点では「これで解決した」と思っていたはずです。数年後に問題が表面化する構造が、このトラブルの厄介なところやと感じます。
なぜこの罠にはまりやすいのか
3つの事例を見比べると、共通する構造が見えてきます。
1つ目は、家賃を払い続ける前提が、契約時に十分伝わっていないことです。売却代金が一括で入ることばかりが強調され、その後ずっと家賃を払い続ける必要があるという当たり前の事実が、勧誘の場では後回しにされがちです。住む期間が長くなれば、家賃の総支払額が売却代金を上回ってしまうことも珍しくありません。
2つ目は、契約更新の保証がないタイプの賃貸借があることです。貸主が契約期間満了後に更新に応じなくてもよい「定期借家契約」が使われる場合があり、「ずっと住み続けられる」という説明と、実際の契約内容がずれていることがあります。
3つ目は、買い戻しの価格に決まったルールがないことです。3件目の相談のように、業者側が自由に価格を提示できるため、「将来的に買い戻せる」という説明が、実際には非現実的な金額に化けることがあります。
そして僕がいちばん引っかかったのは、2件目の事例です。リフォーム代が払えないと言った相手が、そのままリースバック業者を紹介してくる。持ち主でなくなる家のリフォーム代を、結果的に払わされる形になっている。この連携ができている業者がいるという事実自体が、正直、怖いと思いました。
契約前に確認しておきたいこと
国民生活センターが呼びかけている注意点を整理します。
まず、「住み替える意向がない」なら、安易に所有権を手放さないことです。啓発資料でもこの一文が強調されています。引っ越し予定が具体的にない人にとって、リースバックは基本的に向かない手段だと考えたほうがいいです。
次に、「お金が払えないからリースバック」という使い方は危険だという点です。借金の返済や生活費の工面のためにリースバックを選んでしまうと、その後の家賃の支払いがさらに苦しくなるおそれがあります。お金に困っている状況ほど、契約前に一度立ち止まって考える必要があります。
また、リースバック契約でいったん自宅を業者に売却すると、クーリング・オフは使えません。宅地建物取引業法では、消費者が業者に不動産を売却する取引にクーリング・オフが適用されないためです。契約を解除したい場合は、手付金の倍額を支払う「手付倍返し」による解除か、期限を過ぎていれば契約条項に基づく違約金の支払いが必要になることがほとんどです。
売却価格が相場より安く設定されていないか、家賃が相場より高く設定されていないか。契約の仕組みを、業者の説明だけで判断しないことが大事です。
一線を1つだけ持つとしたら
細かい条件は業者ごとに違います。全部を暗記するのは現実的ではありません。
僕が持っておきたいと思ったのは、この一線です。
「今すぐ引っ越す予定がないのに、家を売る」という選択は、一度他人に相談してから決める。 家族でも、消費生活センターでも構いません。契約書にサインする前に、自分以外の目を通す。それだけで、2件目の事例のような「同じ日に2つの契約をさせられる」パターンにはかなり気づきやすくなるはずです。
もう一つ、「買い戻せます」という説明は、金額と条件が契約書に明記されているかまで確認する。 口頭の説明だけでは、3件目のように相場からかけ離れた金額を提示されても、それを止める根拠がありません。
実家の名義や親の家のことで悩んだ経験がある人には、(【実家、売る?残す?】不動産の二極化が進行中)で書いた「家族で早めに話しておく」という考え方も参考になると思います。持ち家をどう扱うかの判断は、急いで結論を出すほど後悔しやすい分野です。
もし今、契約を検討しているなら
高齢の家族が「お金がない」と相談してきたとき、リースバックという言葉が出てきたら、まず落ち着いて中身を確認してほしいと思います。
すぐにできることを挙げておきます。
- 契約書にサインする前に、消費者ホットライン「188(いやや!)」に電話してみる。最寄りの消費生活センターにつながります
- 「住み替える予定があるかどうか」を先に自分の中ではっきりさせる。予定がないなら、この手段はそもそも不要です
- 家賃の総額を、契約年数分でざっくり計算してみる。売却代金と比べて、どちらが得か
高齢の親とお金の話をするのは、正直、気が重いです。でも意向確認書のような公的な通知を放置すると自動的に不利な扱いになる制度もあるくらいなので(年金の『意向確認書』、45日放置すると勝手に『同意』扱いに)、お金に関わる書類はとりあえず家族に見せてもらう、というルールだけでも先に決めとくと安心やと思います。
閉じた場所での急な金銭の話に警戒するという考え方は、(その未払いSMS、送金させようとしていませんか)で整理した一線とも重なります。訪問した業者にその場で契約を迫られたときほど、一度持ち帰る勇気が必要です。
まとめ
- 国民生活センターが2026年8月4日、自宅の「リースバック」トラブルについて注意喚起を公表
- 相談事例3件(いずれも70歳代)=①1,000万円で売却後、家賃7万円から約10万円への値上げを要求②同日に別業者から450万円のリフォーム契約もさせられ、残り3年ほどしか住めない見込み③200万円で売却後、買い戻し価格として売却額の5倍(1,000万円)を提示
- リースバック契約後の不動産売却にクーリング・オフは適用されない。手付倍返しか違約金での解除が基本
- 「住み替える意向がない」なら、そもそも向かない手段。「お金が払えないから」という理由での契約は特に危険
- 一線=契約書にサインする前に家族以外の目を通す/買い戻しの金額と条件を契約書で確認する
自宅を売っても住み続けられる、という言葉の響きだけで判断すると、数年後に苦しくなるのはこちらのほうです。契約前の一手間を惜しまないでほしいと思います。
本記事は、家計改善を実践する会社員が、国民生活センター・消費者庁の公開情報をもとに執筆しています。
本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。制度や相談窓口の詳細は変更される場合があるため、最新情報は国民生活センター・消費者庁の公式サイトでご確認ください。契約トラブルに遭われた場合は、消費者ホットライン(188)へご相談ください。