1,000円払ったら1,200円戻ってきた。
これだけ聞くと、得した話にしか見えません。
でも国民生活センターが2026年8月17日に公表した相談事例は、この「最初にちゃんと得をする」段階があったからこそ、最終的に10万円をだまし取られたという話でした。
僕はこの記事を書きながら、正直「自分だったら途中で気づけただろうか」と自信が持てませんでした。今日はその手口を、順を追って整理します。
何が起きたか
2026年7月28日、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生しました。最大震度7を観測したのは宇城市と氷川町、震度6強は熊本市南区・八代市・宇土市・美里町・益城町でした。
この地震から3週間も経たないうちに、被災地支援を装った詐欺の相談が国民生活センターに寄せられ、8月17日に注意喚起として公表されています。
相談を寄せたのは関東地方の50歳代女性でした。
SNSで自分がフォローしている飲食店のアカウントから、ある日ダイレクトメッセージが届きます。「指定のウェブサイトで商品を購入すると被災地に寄付ができ、さらに購入額より多い金額がコード決済で返金される」という内容でした。
フォローしている先からの連絡だったこと、そして「寄付にもなる」という大義名分があったことで、警戒心はかなり薄まっていたはずです。
手口の順番を追う
ここからの流れが、この詐欺のいちばん厄介なところです。
DM内のリンクをたどると、LINEへ誘導されます。友だち登録すると、グループに参加させられました。
グループの指示にしたがって、1,000円分の商品をコード決済で支払います。すると本当に、1,200円分がコード決済で返金されました。
損はしていません。むしろ200円得をしています。
この「小さな成功体験」が何度か繰り返されました。実際にお金が戻ってくるのを目の当たりにすれば、疑う理由がどんどん減っていきます。人は「一度うまくいったこと」を、次も同じようにうまくいくと考えてしまう生き物やと思います。
そして十分に信用を積み上げたところで、金額が跳ね上がります。10万円をコード決済で支払うよう指示されました。
言われた通りに支払うと、今度は返金がありませんでした。
さらに追い打ちがきます。「15万円決済すれば、先の10万円もあわせて返金する」という連絡です。ここまで来ると、もう後戻りしたくない気持ちと、これ以上損を広げたくない気持ちがせめぎ合う状況に追い込まれています。
なぜ「先に得をさせる」のか
詐欺の手口としては目新しいものではありません。少額の成功体験を先に与えて信用させ、後から大きな金額を要求する。投資詐欺でもよく見る構造です。
ただ今回のケースが厄介なのは、次の3つが重なっている点だと思います。
フォローしている相手からの連絡という時点で、見知らぬ相手からの勧誘より警戒レベルが一段下がります。実際にはアカウントが乗っ取られたか、なりすましのアカウントを作られたかのどちらかでしょう。
被災地支援という大義名分があることで、「怪しいかもしれないけど、いいことのためなら」という心理が働きます。人助けをしたい気持ちにつけこむ手口は、災害のたびに形を変えて現れます。
実際にお金が返ってきたという物的な証拠があることで、疑う根拠そのものが薄れます。口で「安全です」と言われるより、200円でも実際に振り込まれるほうがずっと説得力を持ってしまいます。
3つが揃うと、僕みたいに「詐欺の記事を書いている人間」でも、その場にいたら見抜けたか自信がありません。
国民生活センターの呼びかけ
公表の中で、国民生活センターは特にこの一文を強調していました。
「〇〇Payで返金します」と言われたら、詐欺を疑ってください。
コード決済サービスの運営会社が、SNSのDMやLINEを通じて個別に返金の連絡をしてくることは、通常ありません。返金や還元があるとすれば、決済アプリ内の通知や公式サイトを通じて案内されるのが基本です。
被災地支援をうたうDMが届いても、支払う前に自分で事業者の公式ホームページを確認するよう呼びかけています。「このお店、本当にこのキャンペーンをやってるんだろうか」と、DMの外側で一度確かめる。この一手間だけで防げる被害は多いはずです。
もし支払ってしまった場合は、すぐにコード決済サービスの事業者に申し出ること、あわせて警察に相談することが呼びかけられています。
一線を1つだけ持つとしたら
細かい手口はこれからも形を変えていきます。今回のケースだけを覚えても、次に同じパターンで来るとは限りません。
僕が持っておきたいと思ったのは、こういう一線です。
「得をした」という体験は、信用の理由にしない。 少額の成功体験があっても、それは「この仕組み全体が安全」という証明にはなりません。むしろ、大きな金額を求める前段階として意図的に用意されている可能性を、まず疑ったほうがいいです。
もう一つ、SNSのDMやLINEといった閉じた場所での金銭のやり取りは、それ自体がリスクのサインだと考える。 公式な返金やキャンペーンであれば、わざわざ個人間のやり取りに閉じ込める必要がありません。
未払いのSMSから送金画面に誘導する手口についても、以前「一線を持っておく」という考え方で整理したことがあります(その未払いSMS、送金させようとしていませんか)。今回の手口と細部は違いますが、閉じた場所への誘導を警戒するという軸は共通しています。
「いいねを押すだけ」で稼げるという副業広告から投資詐欺に発展するケースも、入り口の作り方はよく似ています(『いいねを押すだけ』のその副業、投資詐欺への入り口かもしれません)。最初に「簡単に得をする」体験を用意し、そこから金額を積み上げていく構造は、詐欺の定番パターンとして繰り返し出てきます。
もし今、心当たりがあるなら
熊本地震の直後にも、義援金詐欺や無料点検商法についての注意喚起がありました(その義援金、本当に届きますか)。災害のたびに、同じような便乗の手口が形を変えて出てきます。
今すぐできることを3つ挙げておきます。
- 消費者ホットライン「188(いやや!)」に電話すると、最寄りの消費生活センターにつながります
- 警察相談専用電話「#9110」でも相談できます
- 支払ってしまった場合は、使ったコード決済サービスの事業者に速やかに連絡してください。返金や凍結の対応が取られる可能性があります
「もう払ってしまったから」と黙り込む必要はありません。相談したからといって、責められるわけではないです。
寄付をすること自体はいいことです。ただ、被災地への寄付は、赤十字社や自治体、報道機関などが案内している公式の窓口から行うのが確実です。
SNSのDMがきっかけで寄付を思い立っても、そのリンクから急いで支払う必要ありません。一度、公式サイトを自分で検索してみることをおすすめします。逆に、すでに公式の窓口を知っていて普段からそこだけを使っている人には、今回のような手口はそもそも刺さらない話でもあります。
まとめ
- 2026年7月28日の熊本地震(M7.1)から3週間足らずで、被災地支援を装った「〇〇Pay詐欺」の相談を国民生活センターが公表(2026年8月17日)
- 手口=SNSでフォロー中の飲食店アカウントを装ったDM→LINE誘導→少額(1,000円)の支払いで実際に1,200円が返金され信用→10万円の支払いで返金停止→さらに15万円を要求
- 「〇〇Payで返金します」という連絡自体を疑うこと。支払い前に事業者の公式サイトで自分で確認する
- 一線=少額の成功体験を信用の理由にしない/DMやLINEなど閉じた場所での金銭のやり取りはリスクのサインと考える
- 被害に遭った・遭いかけたら188(消費者ホットライン)・#9110(警察相談)へ、支払い済みならコード決済事業者にもすぐ連絡
小さな「得」が最初に用意されているとき、それは安心材料ではなく警戒材料かもしれません。この一点だけでも覚えておくと、次に似た場面に出会ったときの判断が変わるはずです。
本記事は、NISA・家計改善を実践する会社員が、国民生活センターの公開情報をもとに執筆しています。
本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。詐欺の手口は絶えず変化するため、最新情報は国民生活センター・警察庁の公式サイトでご確認ください。被害に遭われた場合は速やかに消費生活センター(188)および警察(#9110)へご相談ください。