「東京の老人ホーム、入居費1,000万円」
そんな見出しを、会社の昼休みにスマホのニュースで見かけました。
僕の親もそろそろ70代に差しかかる年齢で、正直まだ何も準備していません。そんなタイミングでこの数字を見て、素直に「無理やん」と思いました。
でも、記事をよく読むと、もう一つ別の調査で「都内の施設の84.8%は入居一時金100万円以下でも入れる」という、まったく違う数字も出てきました。
同じ「東京都の老人ホーム」の話なのに、片方は1,000万円、もう片方は100万円以下。この記事では、なぜこんなに数字が違うのか、そして親の介護を考え始めるときに何を見ればいいのかを整理します。
「入居費1,000万円」の出どころ
まず、話題になった数字の出どころから確認します。
日本経済新聞が、高齢者施設検索サイト「LIFULL介護」を運営するライフルシニアと共同で調査した結果によると、東京都内の有料老人ホームの入居時費用(中央値)は、2026年1月時点で1,001万円でした。
これは、2018年1月時点と比べて39%の上昇です。8年でおよそ4割高くなった計算になります。
月額費用の中央値も29万7,820円で、同じ期間で15%上がっています。
介護大手のSOMPOケアは、2019年以降に5回の値上げを実施し、値上げ幅は合計で15%に達したとも報じられていました。地価の高騰と物価高、それに介護職員の人件費上昇が背景にあるとされています。
ここまでだと、「東京で親を老人ホームに入れるなら1,000万円は覚悟しないといけない」という話に見えます。実際、僕も最初はそう受け取りました。
でも、別の調査では「100万円以下」が8割超
ところが、同じ2026年8月に発表された、みんなの介護研究所(株式会社クーリエ)の「入居一時金実態調査」を見ると、話が少し変わってきます。
この調査は、東京都内の老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅3,376件のうち、料金プランを掲載している1,238施設が対象です。
入居一時金の中央値は500万円(全料金プラン約6,310件が対象)。ここまでは「安くはないな」という印象です。
ただし、この調査では84.8%の施設に、入居一時金100万円以下で入居できるプランがあることも分かっています。1,050施設が対象です。
つまり、「1,000万円」も「100万円以下」も、どちらも嘘ではありません。どのプランを基準に数字を出すかで、まったく違う顔を見せる、というのがこの話の核心だと思っています。
なぜ数字がこんなに違うのか
僕なりに整理すると、違いはこうです。
日経新聞の1,001万円は、個室タイプの中央値という、条件を絞った数字です。都心の一等地・介護付きの手厚いプラン・広い個室、といった条件が重なれば、当然この水準になります。
一方、みんなの介護研究所の調査は、各施設が用意している一番安いプランも含めて集計しています。同じ施設でも「入居一時金なし・月額を少し高めにするプラン」を選べば、初期費用は大きく下がります。
要するに、メディアで見る「東京の老人ホームは1,000万円」という数字は、選択肢の中でも一番高い部類の話であって、施設選びの幅を広げれば、初期費用はかなり圧縮できるということです。
見出しだけで「うちには無理」と決めつけなくていい、というのが、僕がこの記事で一番伝えたいことです。
一時金が安い分、月額が高くなることもある
ここは正直に書いておきます。入居一時金が安いプランには、たいてい理由があります。
一時金なし・低額プランは、その分月額費用に上乗せされているケースが多いです。業界の一般的な試算では、入居一時金500万円のプランと、一時金なしで月額を高くしたプランを比べると、総額では5年目あたりで逆転するとされています。
つまり、短期間しか入居しない見込みなら一時金なしプランが有利で、長く入居する見込みなら一時金ありプランのほうが総額を抑えられる、ということです。
親がいつまで入居するかなんて、誰にも分かりません。ここは正直、僕も「じゃあどっちがいいか」を明確には言えません。分かってても、決めきれない話だと思います。
都道府県をまたぐと、費用はもっと変わる
もう一つ、LIFULL介護の別の調査(2025年10月31日時点のデータ、個室タイプの中央値)で気になる数字がありました。
- 東京都:1,008万円
- 神奈川県:720万円
- 千葉県:470万円
- 埼玉県:320万円
東京都と埼玉県では、約3.2倍の差があります。
同じ調査では、都内在住者からの問い合わせのうち44.7%が東京都外の施設に向けられていました。都内在住者が都外に問い合わせる先は、多い順に神奈川県10.8%、千葉県9.6%、埼玉県6.7%です。
通える範囲であれば、隣県まで選択肢を広げるだけで、初期費用の桁が変わることもある、ということです。
「特養」という選択肢も頭に入れておく
民間の有料老人ホームとは別に、公的な「特別養護老人ホーム(特養)」という選択肢もあります。
特養は入居一時金がかからないケースがほとんどで、月額費用も所得に応じた負担軽減の仕組みがあります。ただし、原則として要介護3以上でないと申し込めず、地域によっては数十人〜数百人単位の待機者がいることも珍しくありません。
「すぐに入りたいときに入れるとは限らない」という点で、民間の有料老人ホームとは性格がまったく違う選択肢です。とはいえ、費用を抑える手段として存在は知っておいて損はないと思います。
今日、確認できること
ここまでの数字を踏まえて、僕が「今すぐでもできる」と思うことを整理します。
- 施設を探すときは、最初から「入居一時金なし・低額プラン」も条件に含めて検索する(高額なプランしか出てこない探し方をしていないか確認する)
- 通える範囲であれば、隣接県の施設も候補に入れてみる
- 一時金と月額のどちらを重視するか、入居期間の見込みとあわせてざっくりでも考えておく
- 公的施設(特別養護老人ホームなど)は入居一時金が不要なケースが多いので、選択肢として頭に入れておく
正直、うちはまだ何も決めていません。ただ、「東京は1,000万円」という数字だけで思考停止せず、選択肢を広げれば下げられる部分がある、ということだけは今回知れてよかったと思っています。
こんな人には今回の話は関係ない
親がまだ元気で在宅介護を続ける前提の家庭や、すでに特別養護老人ホームなど公的施設への入居が決まっている家庭には、今回の民間有料老人ホームの費用の話はあまり関係ありません。
また、介護保険の自己負担や高額介護サービス費など、日々の介護費用の仕組みについては別の記事で整理していますので、そちらを参照してください。
親の介護費用の全体像はこちらの記事で、介護保険の自己負担や高額介護サービス費、介護休業給付についてまとめています。
老後資金そのものについて「本当にいくら必要か」を自分で計算した話はこちらの記事にまとめました。
実家の不動産をめぐるお金のトラブルについてはこちらの記事も参考にしてください。
老人ホームの入居費用は、報道される数字と、実際に選べる数字の幅がとても広い分野だと今回よく分かりました。
「1,000万円」という見出しにびびって終わるのではなく、まず自分の親の場合、どの範囲で探せそうかを一度確認してみることから始めようと思います。
本記事は2026年8月時点で公表されている調査データ・報道内容にもとづいています。老人ホームの費用・プランは施設や時期によって変更される場合があります。実際の入居先の検討にあたっては、各施設への直接の確認や、地域包括支援センターなど専門家が相談に応じる公的窓口の利用をおすすめします。