「スキマ時間に、いいねを押すだけで月3万円」——そんな広告、SNSで見かけたことはないでしょうか。
僕も先日、動画アプリを開いたら似たような広告が流れてきて、思わず二度見してしまいました。「そんな簡単な話、あるわけない」と頭では分かっとうのに、金額が具体的だと一瞬「もしかして」と思ってしまう自分がいました。
実はこの手の広告、単に怪しいだけでなく、その先に本格的な投資詐欺や借金トラブルが待っているケースが今、かなりの勢いで増えています。今回は警察庁と国民生活センターの発表をもとに、何がどれくらい増えているのか、どこで見分ければいいのかを整理します。
まず数字で見る規模
警察庁が2026年7月31日に発表した「令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」によると、2026年1〜6月の特殊詐欺の被害額は1,816億2,000万円。前年同期比で51.7%増、過去最悪の水準です。認知件数も22,031件で、前年より3,408件増えました。
中でも突出して増えているのが「SNS型投資詐欺」です。
- 認知件数:5,893件(前年同期比+3,020件)
- 被害額:797億9,000万円(前年同期比+444億9,000万円)
これは前年同期のおよそ2.3倍にあたります。半年間で約800億円が、SNS経由の投資詐欺だけで消えた計算です。ちなみに「ニセ警察詐欺」は507億9,000万円(同27.3%増)、「SNS型ロマンス詐欺」は246億6,000万円(同2.6%増)で続いていて、SNS型投資詐欺の伸び方が頭ひとつ抜けているのが分かります。
「簡単な副業」が入り口になっている
警察庁の資料に「副業」という言葉そのものは出てきませんが、国民生活センターの発表を見ると、入り口の実態がよく見えてきます。
国民生活センターは2026年5月19日、「いいねを押すだけ」「スタンプを送るだけ」「スクリーンショットを撮るだけ」といった簡単な副業をうたう広告をめぐるトラブルについて注意喚起を出しました。相談事例には、こんなものが挙がっています。
- 「失敗したのでグループの連帯責任になる」などと理由をつけてお金を請求された
- 遠隔操作アプリを入れさせられ、消費者金融から借りたお金を暗号資産で送金してしまった。仕事や契約の中身は最後まで分からないまま
さらに翌日の5月20日には、もう一段深刻な注意喚起が出ています。「副業サポート」や「投資」の名目で、消費者金融など複数の貸金業者から次々にお金を借りさせる手口です。相談件数は2021年度の1,796件から2024年度は5,212件と、約3倍に増えました。1件あたりの平均契約金額も、2021年度の145万円から2025年度は257万円まで上がっています。
相談事例では、アフィリエイトの「サポート費用」、AIの競馬予想ソフトの代金、FX投資の資金といった名目で、消費者金融から借りるよう案内され、そのまま振り込んでしまったケースが紹介されていました。
流れを整理すると、こうなります。
- SNSや動画で「簡単に稼げる副業」の広告を見る
- クリックするとLINEなど別のアプリに誘導される
- 投資家や「サポート担当」を名乗る相手とやり取りが始まる
- 「投資資金」「サポート費用」の名目でお金を要求される
- 手元になければ、消費者金融から借りるよう指示される
- 振り込んでも利益は出ず、借金だけが残る
副業のつもりで踏み出した一歩が、いつの間にか投資詐欺の入り口に変わっとう。ここが今回、一番伝えたいところです。
見分ける一線は3つ
細かい手口は次々に変わるので、一つひとつ覚えるより「この3つに当てはまったら止まる」というルールを持っておくほうが実用的です。
一つ目。「いいねを押すだけ」「スタンプを送るだけ」で継続的にお金がもらえる副業は、基本的に存在しません。 労力に見合わない報酬を提示する時点で、何かしらの回収の仕組みが裏にあると考えたほうがいいです。
二つ目。「サポート費用」「投資資金」を、借りてまで払わない。 特に「消費者金融で借りれば大丈夫」「すぐに元が取れる」と相手から借入先まで指示された場合、これはほぼ確実に危険信号です。まっとうな投資や副業で、借金をしてまで初期費用を払わせる話は基本的にありません。
三つ目。LINEなど閉じた場所に誘導された時点で、一度立ち止まる。 広告や公式アカウントでのやり取りから、個人間のLINEやDMに移った瞬間、その会話は外から検証しづらくなります。ここで名前や会社名を検索する、家族や友人に話してみる、といった「外の目」を一つ挟むだけで、防げる被害は多いはずです。
未払いのSMSから送金画面に誘導する手口についても、同じように「一線」で整理したことがあります(その未払いSMS、送金させようとしていませんか)。手口は違っても、判断の軸を1つ持っておくという考え方は共通しています。
もし始めてしまっていたら
「もう少し払ってしまった」「今も続けている」という場合でも、諦める前にできることがあります。
- 消費者ホットライン「188(いやや!)」に電話すると、最寄りの消費生活センターにつながります
- 警察相談専用電話「#9110」でも相談できます
- 振込先の口座は、振り込め詐欺救済法にもとづいて凍結・被害回復の対象になる可能性があります。振込先の金融機関名・支店名・振込日時をメモしておくと、相談がスムーズです
一人で抱え込まず、まず話してみることが最初の一歩です。相談したからといって、必ず責められるわけではありません。
災害の直後に増える義援金詐欺も、狙われ方の構図はよく似ています(その義援金、本当に届きますか)。「急いで」「今だけ」と急かされたら、まず立ち止まる。これも共通の一線です。
国も「なりすまし広告」対策に動き出した
余談ですが、こうした広告そのものへの規制も動き始めています。消費者庁・警察庁・金融庁・デジタル庁・総務省・法務省・経済産業省の7府省庁は2026年8月7日、著名人になりすました投資広告などについて、LINEヤフー・Meta・TikTok・Googleなど大手5社に対策強化を文書で要請しました。広告主の本人確認の徹底や、削除要請への対応の徹底などが求められています。
すぐに広告が消えるわけではないでしょうが、行政側もようやく「広告そのもの」に手を付け始めた段階です。効果が出るまでは、僕たち自身が見分ける力を持っておくしかない、というのが正直なところです。
なお、収入を増やす手段として本業以外の仕事を考えること自体は、まったく悪いことではありません。ただ、正規の副業でも住民税の扱いなど確認しておくべき点はあります(副業の住民税バレを防ぐ方法)。「簡単に稼げる」広告ではなく、こういう地味な確認から始めるくらいがちょうどいいと思います。
まとめ
- 2026年上半期の特殊詐欺被害額は1,816億2,000万円(前年同期比+51.7%)で過去最悪
- うち「SNS型投資詐欺」は797億9,000万円(前年同期比+444億9,000万円、約2.3倍)
- 入り口には「いいねを押すだけ」など簡単な副業広告が使われるケースが目立つ
- 国民生活センターへの副業・投資名目の借金相談は、2021年度1,796件→2024年度5,212件と約3倍に増加
- 見分ける一線=①労力に見合わない報酬は疑う ②借りてまで払わない ③LINE等の個人間の場に誘導されたら立ち止まる
- 巻き込まれた・巻き込まれかけたら188(消費者ホットライン)・#9110(警察相談)へ
- 2026年8月7日、政府が7府省庁合同でSNS事業者に「なりすまし詐欺広告」対策強化を要請
広告そのものは今後も形を変えて出てきます。それでも「労力に見合わない報酬」「借りてまでの支払い」「個人間への誘導」の3つを覚えておけば、初動の判断はそう難しくありません。
本記事は、NISA・家計改善を実践する会社員が、警察庁・国民生活センターの公開情報をもとに執筆しています。
本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。統計は警察庁・国民生活センターの公表資料(いずれも暫定値を含みます)をもとにしており、今後の確定値で数字が変わる場合があります。詐欺の手口は絶えず変化します。被害に遭われた場合は速やかに消費生活センター(188)および警察(#9110)へご相談ください。