父が定年退職したとき、退職金が2,000万円入ってきたそうです。
「これをどうするか」という話を親と少ししたことがあります。父は「銀行に預けておけばいい」と言っていた。
その後、銀行の担当者から「退職金向けの定期預金+投資信託セット商品」を勧められ、半分を購入したそうです。
数年後、「あまりよくなかった」という話を聞きました。
退職後のお金の管理は、現役時代の資産形成とは少し違う考え方が必要です。
退職後の「収入と支出」を把握する
まず「退職後に毎月いくら入ってきて、いくら出ていくか」を把握することが出発点です。
退職後の主な収入:
①年金(公的年金)
- 65歳から受け取れる(繰り上げ・繰り下げ受給も可能)
- 厚生年金加入者の平均:月14〜18万円程度(夫婦で25〜30万円程度)
- 金額は「ねんきん定期便」で確認できる
②退職金
- 一時金として受け取るか、年金形式で受け取るか選択できる場合がある
- 相場:大企業で1,500〜2,500万円、中小企業で500〜1,000万円
- ない場合(非正規・自営業等)は貯蓄で補填が必要
③iDeCo・企業型DC
- 60歳以降に受け取れる
- 積み立ててきた金額+運用益
退職後の主な支出:
| 項目 | 月額目安 |
|---|---|
| 食費 | 4〜6万円 |
| 住居費(家賃 or 管理費) | 0〜10万円 |
| 光熱費 | 1.5〜2万円 |
| 通信費 | 1〜2万円 |
| 医療費 | 1〜3万円(年齢とともに増える) |
| 趣味・娯楽 | 2〜5万円 |
| 交際費 | 1〜3万円 |
| 合計 | 月20〜30万円前後 |
夫婦で月25万円の支出を想定した場合、年金収入が25万円あれば「年金だけで生活できる」状態です。
年金収入が月20万円なら、毎月5万円の不足が発生。年間60万円の赤字。
「毎年60万円の赤字 × 25年 = 1,500万円が退職後に必要」という計算になります。
退職金をどう管理するか
退職金は「人生最大のまとまったお金」であり、かつ「これ以上は入ってこない」という性質があります。
やってはいけないこと:
①退職直後に銀行の「退職金向け商品」を購入する
退職金が入ると、銀行から「退職金専用の高金利定期預金+投資信託セット」を提案されることが多い。
高金利定期預金(年0.5〜2%)は3〜6ヶ月の限定期間で、その後は自動的に低金利の定期預金に移行。
セットで購入する投資信託は手数料が高い商品が多く、長期的に不利な場合がある。
「退職したばかりで焦って決める」のが一番リスクが高い。
②一括で高リスク商品に投資する
「老後に増やしたい」という気持ちから、退職金を一括で株式投資に回すのも危険です。
退職後は「収入が限られた状態で大きな損失を出すと回復できない」という状況です。現役時代と違い、損を取り戻す時間と収入がない。
退職金の現実的な使い方
退職後の資産管理の基本は「安全性」と「長持ちさせること」です。
推奨される考え方:
①すぐに使う分 + 老後資金に分ける
退職金2,000万円を例にすると:
- 当座の資金(1〜2年分の生活費):300〜500万円 → 普通預金・定期預金
- 老後の資産運用用:500〜1,000万円 → 低コストインデックスファンド(新NISAで非課税)
- 手をつけない予備資金:500〜700万円 → 定期預金・国債
②インフレへの対応を考える
現金・定期預金だけで保有していると、年2〜3%のインフレで実質価値が目減りします。
老後が20〜30年続くとすると、インフレ対策として資産の一部を株式インデックスで持つことには合理性があります。
ただし「全資産を株式で持つ」ではなく、安全資産とリスク資産のバランスを取ることが重要です。
目安:60代なら安全資産(現金・国債)70% + リスク資産30%
③毎月の取り崩しルールを決める
「必要になったら使う」では管理が甘くなりがちです。
「毎月の年金収入で足りない分(月5万円など)は定期的に取り崩す」というルールを決めると、資産がどのペースで減っているかが分かりやすくなります。
年金をいつから受け取るか
年金の受給開始時期(65歳が原則)は、繰り上げ・繰り下げができます。
繰り上げ受給(60〜64歳から)
- 1ヶ月繰り上げるごとに0.4%減額
- 5年繰り上げ(60歳から)なら24%減額
- 一生涯この減額が続く
繰り下げ受給(66〜75歳から)
- 1ヶ月繰り下げるごとに0.7%増額
- 5年繰り下げ(70歳から)なら42%増額
- 75歳まで繰り下げれば84%増額
損益分岐点の計算:
65歳受給 vs 70歳受給の場合、何歳まで生きれば70歳受給の方が得か?
繰り下げで月額が1.42倍になる代わりに、5年間は受け取れない。
簡易計算:
65歳から受け取っていた場合の5年分 ÷ 毎月の増加額 = 損益分岐点まで何ヶ月
65歳からの月額が20万円なら、70歳から28.4万円になります。
5年間受け取れなかった分 = 20万円 × 60ヶ月 = 1,200万円
毎月の差額 = 8.4万円
1,200万円 ÷ 8.4万円 = 約143ヶ月 = 約12年
→ 70歳 + 12年 = 82歳以上生きれば、繰り下げの方が得
平均寿命(男性81歳・女性87歳)を考えると、男性はほぼ損益分岐点、女性は繰り下げが有利という計算になります。
健康保険の変化に注意
会社員として在職中は「健康保険組合」に加入していましたが、退職後は選択肢があります。
退職後の健康保険:
①任意継続被保険者(退職後2年間) → 在職中と同じ保険を継続できる(ただし会社負担分も自己負担になるため保険料が2倍程度になる場合あり)
②国民健康保険 → 前年の所得に応じた保険料(退職直後は高い場合がある)
③家族の扶養に入る → 年収が一定以下の場合、配偶者や子どもの扶養に入れる
退職後1〜2年間は収入が大きく下がるため、どの保険に入るかを早めに確認することをすすめます。
老後のお金で「後悔しない」ために
定年後のお金の管理で一番大切なのは「先を見通せる計算を持つこと」だと思います。
「退職金2,000万円 + 年金月20万円で何年暮らせるか」を計算してみる。
毎月の不足が5万円なら、年間60万円の取り崩し。2,000万円は33年もつ。
これが分かると「お金が尽きる恐怖」が具体的な数字になって、対策が立てやすくなります。
「なんとなく不安」より「計算すると33年もつ」という現実が、精神的な安定につながります。
マネーフォワード ME
年金・退職金・iDeCoの残高を一括管理できます。「毎月の収支がいくらか」「資産があと何年もつか」を試算して、退職後の資金計画に役立ててください。